遺言の種類・内容について


1.遺言の種類
2.遺言書に記載できる内容(法定遺言事項)
3.付言事項(法定外遺言事項)
4.遺言執行者の指定について
5.遺言の必要性が特に高い場合
6.遺言に関するその他の事項

1.遺言の種類

遺言は民法で定められた方式で行わなければ無効となります。(民法960条)
遺言には普通方式と特別方式がありますが、ここでは一般的に用いられる普通方式の「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類についてご説明します。

自筆証書遺言は、遺言者が全文を手書きし、署名、押印して作成します。
最も手軽な方式で、自己で自宅等に保管しておくためお金もかかりません。

自筆証書遺言には次のような長所があります。

・ 紙と筆記用具と印鑑さえあればいつでもどこでも
一人で作成が可能
・ 特段の費用がかからない

一方、短所は次のとおりです。

・ 法的な要件を欠き無効な遺言になるリスクがある
・ 全文を手書きで作成する必要がある(※財産目録については手書きでなくても良くなりました。)
・ 紛失や滅失、誰かに改変又は隠匿されてしまうリスクがある
・ 相続開始後に家庭裁判所で検認の手続きが必要となる

令和2年7月から自筆証書遺言書を法務局で保管してもらう「自筆証書遺言保管制度」が始まりましたが、このサービスを利用すれば紛失や改変リスクがなくなるとともに、家庭裁判所による検認の手続きも不要となります。
また、遺言者が亡くなった時にはあらかじめ指定した人へ(3人まで)通知が行われます。
指定しない場合でも、相続人の誰かが遺言書の閲覧等を行った場合には、全ての関係相続人に遺言書が保管されている旨の通知がなされます。(関係遺言書保管通知)
なお、本制度の利用には民法の要件に加え法務局の定めるルールに従う必要があり、手数料(3900円)がかかります。

※ 詳しくは、法務省のホームページをご覧ください。

公正証書遺言は、証人2以上の立ち会いのもと遺言者が遺言の趣旨を公証人の面前で口授し、それに基づいて公証人が遺言者の真意を文章にまとめ、遺言者、証人、公証人が内容を確認のうえそれぞれ署名押印して公正証書として作成します。
最も安全性が高い方式ですが、手間と費用がかかります。

公正証書遺言には次のような長所があります。

・ 公証人が作成するので無効な遺言になるリスクがほとんどない
・ 原本を公証役場に保管するため紛失や改変、隠匿等のリスクがない
・ 家庭裁判所による検認の必要がなく直ちに遺言執行手続きがはじめられる
・ 証明力が高く謄本の提示により不動産や銀行預金等の名義変更がスムーズに進む

一方、短所は次のとおりです。

・ 遺言公正証書作成手数料等の費用がかかる
・ 公証役場とのやりとりや証人2人の確保等の手間がかかる
・ 遺言の内容を自分だけの秘密にはできない

公証役場の手数料は、資産の額と相続人数によって決まりますが、資産が多いとそれだけ手数料も多くかかります。また、証人に関しても将来相続人になる家族などは証人になれませんので、他に証人をお願いした場合の謝礼や専門家に手続きを依頼した場合の費用なども考慮しておく必要があります。

秘密証書遺言は、遺言の存在と内容を秘密にできる遺言で次の手順で作成します。

(1)遺言者がその証書に署名し押印する。
(2)遺言者がその証書を封じ証書に用いた印鑑で封印する。
(3)遺言者が公証人及び証人2人以上の前に封書を提出し、自己の遺言である旨ならびに氏名、住所を申述する。
(4)公証人がその証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、押印する。

 秘密証書遺言の文章は自書でする必要はなく、パソコンでも代書でも構いませんが、署名は自書でする必要があります。

秘密証書遺言には次のような長所があります。

・ 遺言の存在と内容を完全に秘密にできる
・ 偽造、変造の危険がない
・ 公証役場の手数料は財産や相続人数に関わらす
11000円である
・ パソコンや代書でも良い

一方、短所は次のとおりです。

・ 公証人は内容を確認できないため、法的な要件を欠き無効な遺言になるリスクがある
・ 自己で保管するため紛失、隠匿の危険がある
・ 家庭裁判所の開封と検認手続きが必要となる
・ 公証役場での手続きや2人以上の証人の確保が必要となる

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2.遺言書に記載できる内容(法定遺言事項)

遺言書に記載できる内容は民法で定められており、これを法定遺言事項といいます。
法定遺言事項は法的な効力があり、大きく次の4つに分類されます。

・ 推定相続人の廃除、推定相続人の廃除の取消し
・ 祖先の祭祀主宰者の指定
・ 相続分の指定、指定の第三者への委託
・ 特別受益分の控除(持戻し)の免除
・ 遺産分割の方法の指定、指定の第三者への委託
・ 遺産分割の一定期間禁止
・ 遺言による担保責任の定め
・ 遺産の処分
・ 相続財産に属しない権利の遺贈についての別段の意思表示
・ 財団法人設立のための寄付行為
・ 遺産の運用の信託
・ 生命保険金及び傷害疾病定額保険金の受取人を変更すること
・ 非嫡出子の認知
・ 未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定
・ 遺言執行者の指定、又はその指定を第三者に委託すること

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3.付言事項(法定外遺言事項)

遺言書には法定遺言事項以外にも家族への感謝の気持ちなどを記載することができます。これを「付言(ふげん)」と言います。
付言は法定外遺言事項であるため法的な効力はありませんが、自分の家族に対する思いなどを付言として記しておくことで、残された家族等にその思いが伝わり遺言書への理解を得られる効果が期待できます。

具体的には、遺言の動機・心情、家業の発展・家族の幸福の祈念、家族・兄妹姉妹間の融和の依頼、家訓等の遵守、葬式の方法、死後の検体等があります。

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4.遺言執行者の指定について

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有する人です。(民法1012条1項)
基本的には未成年者や破産者などを除いて誰でもなることができ、複数人を指定することもできます。
遺言執行者がその権限内で行った行為は相続人に対して直接効果を生じますので、登記や財産の処分手続などを遺言執行者のみで行うことが可能となります。
相続手続きを円滑に進めるためには遺言で遺言執行者を指定しておくことが重要です。

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5.遺言の必要性が特に高い場合

基本的には遺言は誰でもしておいた方が良いものですが、特に必要性が高い場合があります。これらの場合には、遺言がなければ自分の思いを実現できなかったり不都合が生じる場合もありますので注意が必要です。

(1)夫婦間に子どもがいない場合

夫婦間に子どもがいない場合は、配偶者と被相続人の父母や兄妹姉妹が法定相続人になります。兄弟姉妹には遺留分はありませんので、どのように相続をしたいかにより遺言の活用が重要になります。

(2)再婚して先妻の子と後妻の子がいる場合

先妻の子と後妻の子がいる場合は、子の法定相続分は平等になります。子には遺留分がありますが、少しでも配分に軽重をつけたい場合は遺言が必要です。

(3)長男の妻に財産を分けてやりたい場合

同居する長男夫婦に子がおらず、長男が先に死亡している場合に、お世話になった長男の配偶者に財産を遺すためには遺言による遺贈が必要となります。
民法1050条の特別寄与料も請求可能ですが、要件や金額等を勘案すると遺贈の方が親族等の負担が少なくてすみます。

(4)内縁の妻がいる場合

普通の夫婦同様に暮らしていても、婚姻の形式的要件を満たしていない内縁の妻は法定相続人になれません。この場合は両親や兄弟姉妹が相続人になりますので、内縁の妻に財産を遺すためには遺言による遺贈が必要です。

(5)各人毎に相続財産を特定して相続させたい場合

自宅と工場は長男、農地と有価証券は次男、預金と自動車とゴルフ会員権は長女、というようにあらかじめ特定して相続させたい場合は遺言しておく方が相続時の負担が少なくてすみます。

(6)相続人がいない場合

配偶者が既に他界するなど相続人がだれもいない場合に、自分がお世話になった人や活動方針に賛同する公益的な団体等に遺言で遺贈できます。

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6.遺言に関するその他の事項

(1)遺言の撤回・変更

遺言は、何度でも撤回や変更ができます。(民法1022条)公正証書遺言の手数料は、変更した部分だけにかかります。
遺言が複数ある場合には抵触する部分については後の遺言で前の遺言のその部分を撤回したものと見なされます。
これは遺言の形式にかかわらないため、公正証書遺言のある部分を自筆証書遺言で変更することも可能です。
よって、一概に日付が一番新しい遺言書のみが有効とは言えませんので注意が必要です。

(2)公正証書遺言の原本、正本、謄本、原本の保存期間

公正証書遺言の原本、正本、謄本は全て同じ効力を有しますが、原本は公証役場に保管され持出ができないため不動産の所有権移転登記手続きを行う場合は正本又は謄本で証明を行います。原本の保存期間は、遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存する取扱いとなっています。

(3)公正証書遺言原本の閲覧、正本・謄本の交付

公証役場で公正証書遺言の原本の閲覧ができるのは、嘱託人、その承継人(相続人等含む)、利害関係者、検察官に限られます。
ただし、遺言者の死亡により遺言の効力が生ずるまでは、遺言者本人以外の閲覧は制限されます。
正本の交付請求ができるのは嘱託人とその承継人(相続人は含まず)に限られ、相続人は交付請求できません。
謄本の交付を受けられる者は、原本の閲覧請求ができる者と同じです。

なお、公正証書遺言検索システムを利用して全国どの公証役場からでも公正証書遺言原本の所在する役場の検索を依頼することができます。

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